二次創作小説 短編小説 神之塔

episodeカラバンーmemories of COLLECTIONー「COLLECTION.1 青ドリアンフロッグ」【神之塔二次創作 カラバン連続短編小説】

※神之塔の登場キャラクター「カラバン」を中心とした二次創作小説です。二次創作が苦手でない方、神之塔485話までを読まれた方向けの内容であることをご理解下さい。種類としては、できるだけ"原作の設定や事実に沿った"創作となります。カラバンおよび第4軍団の、本編の合間にあったかもしれない時間を楽しんでもらえたら幸いです。


<登場人物>

ーーザハード軍第4軍団ーー

◯第2師団 副師団長 青ドリアンフロッグ
ハイランカー。カラバンの2階位の従者。カラバン隊の最初のメンバーと思われる。相棒は古代蛙の神海魚ポーラックで、普段はフロッグの持つ井戸の中にいる

◯(元)軍団長 カラバン
  ハイランカー。軍に入る前は人間ハンター/コレクターとして塔に名を馳せた

・第2師団 師団長 真田アマネ
ハイランカー。2階位の従者。軍人気質の女性
・第1師団 副師団長 クール・ニッサム・ケイ
イイとこのぼんぼん。青ドリアンフロッグとは同年代っぽく、階級も同じ為、一方的にライバル視している
()第4師団長 ユルカ
ハイランカー。2階位の従者。

ーー反ザハード勢力ーー

デスレディー
  カラカの部下。大きなツノのある兜とストライプのスーツの装い。ヤリを所持
デスカランビット
  カラカの部下。デスレディーとともに人間らしい見た目。戦闘時、両手に大きな刃を具現する

・カラカ
  FUGの若きスレイヤー。ハイランカー


<塔50階 巣周辺 第1防壁内>

青ドリアンフロッグは焦っていた。
「しばらく師団長の姿が見えない……」
全く見えない戦況。その一端が思わず口をつく。スレイヤーカラカが一人もの凄いスピードで第2防壁の方角へ飛ぶのを見てからも、依然として師団長の姿を確認できずにいた。
ーーあの人に限ってFUGのひよっこスレイヤーなんかにやられ……「!?」
黒い炎のような攻撃。
「くっ!!」
大きく曲線を描きながら広範囲に斬りつけてくる神之水。フロッグは、井戸からポーラックの粘液質を展開し、問題なく防いでいる。
「さっきから気が散っているな、汚れたザハードの手下よ」カラカの部下の男は、相変わらず手数も口も減らない。
ーーしつこい!終着駅でもそうだったよ。ほんとFUGってのは。「わざわざ死にに来る頭のおかしいヤツらが何言ったってなー!」
最初の急襲を受けて以降、左翼の被害は広がっていない。だが、当のカラカはどこかへ行き、師団長はそれを追った様子もなく消え、自身はカラカの部下2人に足止めを食っているこの状況に、フロッグは苛立っていた。さらに、第4軍団旗艦の"あの命令"である。
この対戦、自軍で溢れたこの戦場で出しあぐねていた「ポーラック!!一気に片付けるぞ!!」必殺の相棒に助けを求めるも、
「させませんよ!!」先ほどのより直線的で威力は数段上の鋭い神之水が、瞬時に身を引いたフロッグの右腕をかすめた。
「ちっ!クソ」ーー油断しなければかわせる。落ち着け。問題ない。
「カラカ様から言われてるんです。あなたの蛙は少しだけ厄介だとね」妙に物腰の柔らかい女。このもう一人の存在がフロッグをこの場に縛り続けている。常に遠巻きでいて、大技やポーラックを井戸から繰り出そうとするタイミングを的確に、ヤリから放つ神之水で狙ってくる。
一人一人の実力はせいぜい上位ランカー程度。ただこの連携を、フロッグは攻略できずにいた。
「それと、お前を始末しろともな!」
また。
「あぁ!しつこんだよ!!」
こうして両手の大きな刃で直接斬りつけてきたり、中距離から神之水の斬撃を飛ばしてきたり、手前の男だけでも少し面倒なのに、と、フロッグは睨み返し、力ずくで押し返す。
「何か言ったか?汚れたザハードの手下よ」
「まっ、コイツ……おい。お前らこそヤマのケージがやばそうだけどいいのか?お前らの本軍じゃないのか?」
笑ってみせたフロッグの、井戸のグリップを握る右手は、やはり力まずにはいられない。
ーーさっきのカラバン様の通信。『軍団長の命令だ!!旗艦はケージごと爆破させる!!』またあの言葉がよぎる。相手に叩きつけて少しでも落ち着こうと思ってる。自覚はある。
「我々は、我々の神に召されるまま」
敵の一言で意外にもフロッグの引きつった笑顔がほぐれる。
自らの主人をどこまでも信頼し、揃って同じベクトル向けてくる危険な2人の、徹底した連携、その原動力に、わずかな共感を覚えたから。
「そーかよ!!」ほんのお礼に苦し紛れの格闘戦を仕掛けながら、フロッグは腹を決めた。
ーーそれが、カラバン様、あんたの命令なら全然いいんだ。僕、いや俺っちは、きっと皆も、いつでもあんたの為に死ぬ覚悟は出来てる!!
揺るぎない忠誠、その純度を示す憎たらしいほど無表情な敵の顔を間近に睨む。
ーーただ……このまま旗艦が自爆して、それで本当にいいんですか?
力の均衡のわずかな隙。
合わせて短く息を吸って。
力の限り手前の男を押しやる。「ハイランカー、なめんなぁ!!!」なるべくもう一人の射線上へ。
それでも後ろのヤツの放は複数。
フロッグは致命傷と引き換えにポーラックを出そうとーー、そのときだった。

輪郭の消失。
閃光。
戦場。
視界。
全ての意味を奪うまばゆさ。
感覚は緊急のスローモーション。
ハイランカーの目は、その瞳孔を刹那の間にぎゅっと絞る。
保たれた視覚でその光源ーー犬族のケージに旗艦が絡み付いていた場所ーーを一度捉え、そちらから体にドォンと重たい空気と振動が遅れて伝ってくる頃、フロッグは無意識に、遥か向こう第2防壁あたりにあるであろう、見えるはずのない"あの背中"を探した。
ーーそれさえ見えたら、師団長も、軍団のみんなも、全部、大丈夫だから……。

いつだって俺っちたちにとっての"爆発"は、あんたが、あんたの道を妨げるものを消し飛ばしたって合図だった。

戦場で、黄と青が混ざったマグマのようなあの爆発があると、あんたに歯向かったヤツも、仲間を追い詰めたすげぇ敵も、みんな跡形もなく消えた。

その爆発で照らされて、薄い膜が次々と自分の体を通り抜けてくようなキレの良い余波を感じながら、いつも俺っちは、あんたの背中を探した。

あの憧れのでっかい背中をーー。


俺っちたちはあの頃、塔中の中間地域の探索に明け暮れてた。
古代蛙のポーラック、この最高にクールな相棒との気ままな旅は、まさに生きてる〜って感じの連続だった。
たしかけっこう上の方の階の、そこらにだけ生息する、生まれながらに「チキン」って鳴く種類の蛙っちがいるって噂を聞いたんだ。嘘でも本当でもいいから、いつものように野宿して、とりあえず探し回ってた。もし会えたらポーラックとチキンの合唱をさせようとか考えながら。
そこら中、真っ直ぐな巨木と原生植物の生い茂る森林。
ーーがさっ。
人に出会うとは想いもしないその場所で、デカい葉をかき分けて現れたのは、超絶体格の良い一人の男だった。一目で只者じゃないと分かった。
男が正面に歩み寄ってくるまでの間、驚きと緊張で声は出せず、左手は腰に、右手の井戸を地面に突き立て、余裕かますので精一杯。
で、最初に言われた言葉がこれ。
「俺の仲間になれ」

神之塔482話より引用

ーーケイやユルカ、師団長なんかにこの話をするたび、俺っちはこれを2回言うことにしてる。俺っちがカラバン様に"一番最初に言われた言葉"が、間違いなくこれだった。まあユルカは聞いても驚かなかったけどーー
それで、当然「え?」って聞き返して、少し待ったあと、「こんなとこで言うのもあれなんすけど、人違いでは?」と混乱したままもう一つ聞き返した。
「チキンと鳴く蛙だと聞いた」
と、男は答えた。ん、答えた?
「あ、あぁ〜、え?あれっすか?おたくも蛙好き?」どう見てもそうは見えない。けど、とぼけてそう聞く俺っちに、
「蛙は好きでも嫌いでもない。凄まじく強い古代蛙の話を聞いたので会いに来た」
との返答。
やばい、逃げよう、そう心から思った。
「そうなんすね〜。見つかるといいっすね!」慌てず、ゆっくり、背中を向けようとした矢先、
「全身その蛙とお揃いのデザイン、そんな服を着た男が連れている、とも聞いた」
男はそう付け加えた。
「あはは…………じゃあ、それ……俺っちっすね!!」
持ち上げた井戸を戦闘モードに展開、腰をぐっと落として、今から戦う相手を見据えた。少なくとも最初の言葉への"ノー"の返事は伝わったはず。
ーーその目に映ったあの時のカラバン様の姿、「そうか」とだけ返し、張り詰めた俺っちを前に表情も体勢も全く変えず、直立し、じっと見つめ返す男の姿は、今も目に焼き付いているーー
身がすくんで動けないことを"牛に睨まれた選別者"なんて言うけど、今ここで蛙を睨んでいるのは……目だけで相手を金縛りにする男、例えるなら蛇?
「仲間になれという相手に名前も名乗らないんすか?」
呼吸を思い出しながら聞く。本来ポケットの識別で事足りること。そもそも名前なんて聞いたところで状況は変わらない。
「カラバンだ。それと仲間にしたいのはお前ではない、蛙の方」
「ポーラックっす。けどそれは残念。コイツは俺の言うことしか聞かないっすよ」
まともに動けない自分との差をほんのわずかでも縮めたいが、
「試してみるさ」
1ミリも動じない。
多くを語らないその口ぶりも、井戸からの「敵を分析します。ハイランカーでも上位クラス、体内に膨大な神之水の量と濃さを確認」って情報も、不用意に近づくのは危険という認識をさらに高めていく。まともにやり合ったら相手にならないか。
「これならどうっすか!!」
展開した井戸の両側から、可能な限り濃縮した粘液質を男の周囲まるごと覆うように浴びせにいく。単純な力やスピードで負けていようが関係ない。こちらを格下と思っている相手には効果的なはず。
その自由を奪うであろう俺っちの攻撃が目前に迫っても、男は反応を見せなかった。
ちょっと舐めすぎたっすね、と口元がほころんで、
よし!やった!もう心の中で叫ぶ寸前だった。
「ボンバー」
そうはっきり男が発したのと同時に、1フレームずつの暗転と閃光。
その安堵も歓喜も、全てが吹き飛んだ。
次の場面には、右手の甲からマグマのような神之水を立ちのぼらせている以外、最初に俺っちと向き合ってから何一つ変わらない形のまま、一人の男が立っているだけ。
最悪な状況はそれで終わらなかった。
展開した井戸の両サイドが勝手に収まる。「な、なんだ!?」中央の大穴から神之水が渦を巻いて溢れ始め、「ーーーはっダメだ!!ポーラッ、わぁぁっ!!!」勢いよく体が後ろに弾かれた。
自分がいた場所の宙へと飛び出したのは怒りの相棒。俺っちと男の間に入る形に。
「これが古代蛙か」そう言って、ついに重い腰を少し落とし、上空のポーラックに向けて両手の平を突き出す男。そうするだけで背筋が凍るほどの脅威。右手の甲の光は次第に消えていった。
対するポーラックはすでにゲコゲコと体内の反響を増幅し始めている。「やめろ!!お前でも敵わない!!ダメだ!!」後ろからその右足に飛び付き必死の説得をするも、当然聞いちゃいない。こうなると手が付けられないんだ。
コイツと一緒になってハイランカーに認定されてから、上位ランカーに突っかかられることも何度かあった。相棒はいつもクールで温和、何にも動じない。強者ゆえの威厳や風格すらある。階を移ろうってとこを襲われたあの時も、しょうがねぇな、いっちょ揉んでやるか、って感じだった。船外上空で敵と向き合う俺っちと相棒に、上方向からの敵の加勢、不意打ちのヤリが、こともあろうか"あれ"を射抜いちまった。そう。"俺っちとお揃いのヘッドホン"がなんてことない一撃でおしゃかに……。怒り心頭のポーラックは、俺の制止なんて見向きもせず、敵勢はもちろん、移動用の浮遊船も、少し先のワープゲートまで一帯のインフラも全部吹っ飛ばしちまった。
怒った相棒は何度も見てきた。でも、今まで一度だって、勝手に井戸から出てくるなんてことなかった。それほどに追い詰められる相手と出会ったことがなかった、って意味でもあると思う。コイツも分かってるんだ。目の前の男が尋常じゃない強さだって……。だからこそだ!やめてくれ!お前はコイツの言うことを聞けばきっと助かる!「頼むからやめてくれ!!なあ!!ポーラック!!!」
聞かん坊の柔軟な体内で限界まで増す空気の振動。俺っちがしがみつく、そのぬめっとした、いつもに増して冷たい気がする足からも、揺れが伝わってくる。
「チチチチチィィィィィ!!キィィィィィィィィィィン!!!!!」
願い虚しく放たれる渾身の衝撃波。
「くっ!!!」
後方の俺っちですら体ごと持っていかれそうな威力。
細めた目でのぞく先には、周囲の大気を次々と巻き込む暴風、重厚な体、その踏ん張る両足を次第に地面にめり込ませて、ひたすら耐える男。伏せた顔から表情は伺えない。
さらに奥では、巨木たちや人に勝る身長の植物らが、ほぼ抵抗なく地面と平行に薙ぎ倒されていく。
たちまち向こうの山の麓まで続く、管理人用の巨大なボーリングレーンが1つ出来上がった。
最強の相棒の、かつてない最大級の衝撃波。
それがもたらした大災害を背景に、男は、
「強いな」
あまりに呆気なく、そう言った。
その声が容易にこちらへ届くという事実が、そのまま一つの残念な結果を示している。
男の両足が"ほんの2,3歩分"後方まで引きずられた跡。むしろ太ももの付け根まで地面にめり込んだその深さの方が目に付くほどに「遠くへ吹き飛ばす」という結果は得られなかった。少しでも男を遠くへ追いやり逃げる、俺っちたちにはその道しか残されていなかった。もう行き止まり。
「こちらも敬意を払おう」
男は自分の道をまた一歩進む。
その意志も実力も俺っちとは段違いだ。
今感じているこれを"絶望"というのだと知った。
「武の浄水」
そう男が続けると、その体がもう一回り大きくなった。ここで一つはっきりしたのは、ポーラックの全力の衝撃波を受けきった男が、今の今まで"神之水による身体強化を一切していなかった"ということ。まあ驚きはない。絶望の輪郭がより鮮明になっただけ。
男の右手の甲から再び黄と青のマグマが立ち上っている。敵の最大の攻撃にも無傷だった人間が、ここに来て身体強化をする理由は一つ。これから自分が放つ攻撃だけが唯一、そのままの肉体では耐えられないほどの威力だからだろう。より強力な砲弾を撃ち出すのにはより分厚く強固な砲身が必要だから。
その行為が何の意味もないと分かっていて、俺っちは、ポーラックの前方の空中、相棒と少し離れた男とを結ぶ直線上に、十字架のようなポーズで割って入った。
すぐさま男が忠告する。
「そこから一歩でも近づけば、お前を一瞬のうちに跡形もなく消す」
そのままの意味だと理解する。
「俺っちは一生コイツと一緒にいるって決めてるんで」
これまでも決して噛み合っていたとは言えない会話。男の眼中にもないのなら、こちらも自分の言いたいことを言って、やりたいことをやる。最後くらいは。
「死に方か。さすがにハイランカー。戦士というわけか」
これほどの強者に言われると不思議と悪い気はしない。
それから、男は脈絡もなく語り出した。
「俺は、自分に与えられたこの力で、いまだ分裂した塔の全てをねじ伏せ、従わせ、塔に平和をもたらす」
その正直かなりヤバい発言とは裏腹に、俺っちは初めてこの男と対話してると感じた。とどめを刺す相手への誠意みたいなものだったかもしれない。
「……それがあんたのしたいことっすか?」
「いや。単なる運命だ。この力を持つ者の、持てる器にしか為せない、為さなくてはならないこと。このままにすれば塔の悲劇は永遠に繰り返される」俺っちを跡形もなく消すその力を右腕に蓄えたまま、男は、想像より何倍も言葉を尽くし、答える。
「なんだか、真面目なんすね。俺っちは平和だとか他の人間なんかに興味はないっす。全くと言っていいほど」
「他人の生き死ににも興味はないのか?」
「あ〜、ないっすね。俺っちにはこの相棒がいればそれでいいんで」
「だが、その蛙を守る為ならお前は他人を殺すだろう」
「ポーラックっすよ。まあいいけど……。コイツ俺より強いし、守られるとかそんな柄でもないし。ああでもコイツの方は、たまーにめちゃくちゃ怒って手ぇつけらんなくなることあるっすけどね。……だから俺っちに出来るのは、見ての通り、最後にコイツと一緒に死ぬぐらいっすかね」
一つ間を置いて、男がまた問う。
「その蛙……ポーラックは、お前の言うことしか聞かないというのは本当か?」
男の威圧がさらに凄みを増した。
目に若干の怒りの色?いや、分からない。
ただ、この男は持ち合わせていないと思っていた、何か感情的なものをわずかに含んだプレッシャー。
その先端が、鋭く尖ったニードルのように、俺っちのこめかみに刺さる。
これが最後の質問だと分かった。
「本当っすよ」追い詰められてるから、とか、正直に、そういう"判断"じゃない。とある男が、ついに相棒の名を呼び、尋ねてきたことに対し、俺っちはそのまま答えた。「ーー見て分かんないっすか?そこらの蛙の比じゃないこの何事にも動じない目。頑固を絵に描いたような口、この下アゴ」絶対的強者を前に、笑顔で、相棒のクールさを語れただけでも、最後にしては上々だ。
見合ってた男の視線が、一度わずかにずれた。たぶんポーラックの目を見た。
あとは、言葉通りに俺を跡形もなく消し去り、同時に迎え撃つであろう今もチチチチ言ってる相棒の最後の抵抗もろとも一緒に逝くか、かかってももう一撃。
そうだろ相棒?
それで全てがおしまい。
まあやりたいことやって、悪くない人生ではあったよな。
もしコイツと出会わない人生があって、もう数千年長生きできたとしても、こんな気持ちにはなれないだろう。
欲を言えば、もうほんの少し、数年でも、いや数ヶ月、あと1週間でも、この時間が続けばなぁ〜、とか。
ほんのちょっと、惜しいだけだ。
「ーーーわからんな」
何か音がした。
もう"何も分からない時間"が来たと思った。
理解は追いつかない。
少し対話が出来たと錯覚した。
その男は、最後まで、俺っちとは全く別次元だった。
さっぱり分からなかった。
意識だけ"無"に飛んでた俺っちが息をしているのを確認した時にはもう、踵を返し、ポーラックが作ったばかりのどデカい一本道の真ん中を、真っ直ぐに、男は歩き始めていた。
その武を極めたかのような背中を向けて。
それまで気にも留まらなかったボロボロの服で。
身一つでこんな僻地まで、少なくとも3日以上かけてわざわざ来たはずなのにーー。
「なんだよ!!なんでだよ!!」
ポーラックを仲間に引き入れようと、その先の信じらんないくらいデッカい構想もあって、俺っちの命一つ簡単に払えるヤツが!なんで!!
「うまくはいかないな」
さっきの会話が嘘かのように、また多くを語らない。答えない。
壮大な力を内に秘めた、不釣り合いなたかだか人間サイズの、その大きな背中。
次第に小さくなるほどに、この広大な塔と自らの運命に踏み入り、歩みを進める屈強な一人の男を、その前途を、俺っちは、ここで立ち止まってーー、
ただ見送るーー、
そうしてるだけじゃ、どうしようもない気持ちが込み上げてくる。
……お前は怒るよな、相棒。
でも。
もっと近くでーー。
「あんた!やっぱり似てるっす!!」
男は、追いかけてくる俺っちを自分の肩越しに一度見て、そのまま歩みを止めない。
俺っちは、その距離を縮めながら、続けた。
「蛙っちっす!!その動じない目!!ほら今も!!俺っちの言うことなんて知ったことかって、テコでも動かないそのがっしりしたアゴ!!ポーラックを越える逸材かもっす!!」
前を向いたまま、男はぼそっと言う。
「言葉が通じんな」
ーーそりゃそうっすよ。嘘っすから。あんたは、その目も、アゴも、別にどこも、どこの誰にも似てない。だから。
「だから!あんたの仲間になるって言ってるんすよ!」
すぐ追いついた。
あんたは、歩みを止めない。
「ポーラックは俺っちの言うことしか聞かない。だから俺っちも一緒に旅するってことっすよ!」
ーーけど、語らないあんたと同じ、俺っちも本当の思いは言わないっす。
「旅ではない」
率直な否定、淀みない歩幅。
俺っちは少し歩きを緩めた。
そしてまた、目にする。

その背中。
蛙じゃなくて、人間の男の、その背中に、初めて、憧れたんす。
カッコイイとか、イカすとか、そんなんじゃない。
肩は並べられなくとも、少しでも近くで見てたい、そんな自分になりたいんすよ。
波が来ようがヤリが降ろうが、この背中は歩みを止めず、淡々と自分の運命を辿って行くんだと思う。
きっとこの先、あんたはたくさんの部下を従えて、みんなが見るんすよ。
その全部を背負った、今よりもっとずっとデッカい背中を。

俺っちは、「好きにしろ」とも何とも言わない相変わらずのあんたの、その背中の少し後ろを歩く。頭の上に組んだ両手を乗せて。
最高の相棒だけじゃ終わらなかった人生、目の前の目標に少しでも近づこうとする、最高で終わりない人生の始まりに、心躍らせながら……。

あとがき

フロッグは、終着駅での戦闘中、部下に「僕」という一人称を使っていますが、これは意外と責任感のある彼が、ザハード軍に入り多くの部下を持って彼なりに振る舞いを意識した結果、という解釈です。

また、この話はフロッグの視点で書いていますが、のちに人間コレクターと呼ばれる男の、最初のコレクションを獲得する過程は、カラバン自身にとって「敗北」とカウントされていると考えて作りました。力の敗北という感じで。

今後のエピソードも、ほとんどが「誰かから見たカラバン」という描写になりますが、その時カラバン自身は何を思っているのか、とか思い思いに想像しながら読んでもらうとより楽しめるかもしれません^^

また次のお話でお会いできたら幸いです!

皆さまに神之水の祝福がありますように!

≫第2話はこちら

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